翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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わたしの英語学習法(3)

 高校卒業後、わたしは大学には進学せずに働きました。いくつか仕事を経験したのち、一生続けられるような仕事がしたいと考えて翻訳家になろうと思いました。20代前半のころです。

 そこでまず翻訳の通信講座を受講しながら、辞書を引かずに英語の小説を読みはじめました。最初は英語学習者のための、かぎられた語彙数で書かれた本を読んだのですが、ラジオ講座のおかげである程度英語力があったせいか、物足りなく感じて、すぐに普通のペーパーバックに手を伸ばしました。

 ペンギン・リーダーズという英語学習者向けの本のシリーズがあります。このサイトを調べてみたら、3000の語彙数の範囲内で書かれた本は準1級レベルとなっています。わたしは当時3000語の本をすらすら読める程度の英語力がありました。また、このころ英検2級を受けて合格しましたので、大人がふつうに読むペーパーバックに挑戦できるかどうかというのは、英検2級か準1級レベルが目安になるかもしれません。

 ただ、わたしの場合はペーパーバックに移行しましたが、英語の本を読むときに大切なのは辞書を引かずに、わかる部分だけを頼りにして、わからない部分は推測しながら、たくさん読むことです。ですから、自分のレベル以上のむずかしい本を無理に読むことはありません。ストーリーを理解して楽しめるレベルのものを、辞書を引かずにたくさん読むことをお勧めします。ペンギンリーダーズには英検で4級、TOEICで200点代レベルの人のための本もちゃんと用意されています。

 わたしの場合はペーパーバックに手を伸ばしてみたものの、なにしろ高校までの英語教育しか受けていませんから、どんな小説もすらすら読めるというほどの英語力はありませんでした。いまでもよく憶えているのが、『卒業』という映画の原作になったThe Graduateを読んだときのことです。主人公はなぜかしょっちゅうなにかをstare atします。読みはじめたとき、わたしはこのstare atという言葉の意味がわかりませんでしたが、気にせずに読み進めました。

  すると途中で意味がわかりました。辞書を引かなくても、文脈から推測できるのです。推測できるためには、わからない言葉の前後の意味が理解できていることが必要です。つまり、多少わからない単語や表現があっても、8割、9割がわかっていれば問題ないのです。これは今後の記事でも書きますが、英語を聴きとるときも同じです。

  もっとも、stare atの意味も知らないという、その程度の英語力しかなかったのに翻訳家を目指していたのですから、われながら若さとは恐ろしいものです。

 ところで、本を読むときに一番むずかしいのはどこだかご存じですか? 考えてみたことはありますか?

  外国語の本を読むときにいちばんむずかしく感じるのは、最初の4、5ページです。本との出会いは人とのつきあいに似ています。初めて人に会うとき、その人がどこに住んでいてどんな仕事に就いているのか、どんな性格なのか、家族構成はどうなっているのか、趣味はなんなのか、なにもわかりません。つき合ううちに、少しずつ人となりがわかってくるものです。

 本もこれと同じで、小説の場合は主人公の性別、年齢、職業、家族構成、趣味、癖などが、たいていの場合は最初の数ページで把握できるようになっています。いったんそれがわかってしまえば、読み進めるのが格段に楽になります。

 また、どの小説家もそれぞれに文章に独特の癖があるものです。語彙も表現方法も、人によってちがいます。その作家の癖に慣れるまでに3ページから5ページ、場合によっては10ページくらいかかります。

 ですから、辞書を引かずに外国語の本を読むときは最初は少しむずかしいと感じても、がまんしてしばらく読んでみることをお勧めします。そして4、5ページ読んでもどうしても内容がわからず、楽しめなかったら、読むのをやめることをお勧めします。その本はあきらめて、別の本を試しましょう。

 わたしはそのようにして、つぎつぎにペーパーバックを読みました。また、翻訳の通信講座を修了した時点で上京し、翻訳学校に通いました。翻訳学校は、たしか週に1回2時間だけだったと思います。昼間は働き、夜は翻訳学校の課題にとり組んだり、英語の小説を辞書を引かずに読んだりしていました。翻訳の課題にとり組むときは、もちろん頻繁に辞書を引いていました。

 とてもたいへんな努力をしたように聞こえるかもしれませんが、わたしにとってはすべて楽しいことだったのです。苦行に耐えていたわけではありません。小説を読むのが大好きだったので、ペーパーバックに読み耽っている時間は至福のひとときでした。翻訳の課題にとり組むのも、パズルでもしているように楽しめました。苦しいと感じることをなに一つしなかったというのも重要なポイントです。

 東京の翻訳学校に2年間通った時点で、イギリスの英語学校に留学することにしました。翻訳家になるには、英語力があまりにも不足していると感じたからです。とくにわたしが力不足を感じたのは、会話の微妙なニュアンスを読みとることができない点でした。わたしは英語を使って話したことがありませんでしたから、小説のなかの会話を訳すときに、ちゃんとニュアンスを理解できているかどうか自信が持てなかったのです。

 いまならインターネットで海外のドラマを観たりDVDを観たりできますから、そのなかで会話のニュアンスを学ぶこともできると思います。けれど翻訳学校に通っていたころのわたしは、NHKラジオの英語講座と当時FENと呼ばれていたアメリカ軍のラジオ放送、そしてたまに観る映画くらいしか、生きた英語に触れる機会がありませんでした。ネイティヴスピーカー同士が、実際にどんなふうに会話を交わしているのかが、感覚としてつかめなかったのです。

 つぎの記事ではイギリスに留学したときのことを書こうと思います。

 下にThe Graduateとペンギン・リーダーズへのアマゾンのリンクを貼っておきます。The Graduateは「ストレートで簡潔な文体」とか「ほとんど辞書を引く必要なく、すらすら読めてしまうので、逆にびっくり」と、読者の方々がレビューしておられます。かなり平易な英語で書かれた小説ということでしょう。映画を観たことがある方なら、なおさら理解しやすいと思います。stare atの意味をいま知らない方も、これを1冊読めば体得できますよ。



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プロフィール

May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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