翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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2年で日本語が堪能になったアメリカ人(1)

  独学で勉強を始めて、たった2年でびっくりするくらい自然な日本語が書けるようになったアメリカ人がいます。この人は語学の天才というわけではないようです。というのも、中学、高校で7年間スペイン語を勉強したにもかかわらず、スペイン語はできるようにならなかったというのですから。

 この人の名前を、仮にJさんとしましょう。Jさんはスペイン語の勉強を、とくにさぼったわけでもなかったといいます。学校で先生が言うとおりにちゃんと勉強したけれど、ほかの生徒に比べても成績が劣るくらいだったのだそうです。

 けれど子どものころから異文化に興味があり、文化と言葉は密接に結びついているから文化を知るには言葉を知る必要があると、Jさんは考えていました。大学を卒業し、社会人として働きはじめて1年ほど経ったとき、外国語を身につけて異文化を理解したいという気持ちが強まったそうなのですが、7年間も勉強したにもかかわらずスペイン語がちっともできるようにならなかったので、外国語を習得することが可能かどうかをまず調べたとのことです。

 インターネットでさまざまな情報を調べるうちに、外国語を実際に身につけることができた人たちがいること、その人たちは「語学の天才」ではなく、普通の人であることを確認できたとJさんは感じました。また、そういった人たちのなかに、Antimoonメソッドに沿って勉強した人たちがいるのに気づきました。そんなわけで、母国語を身につける場合と同じようにインプットを重視するAntimoonメソッドなら、外国語を習得できるにちがいないと考えたのです。

 学習法を決めたあとで、どの言語を学ぶべきか思案しました。結局日本語を選んだのですが、理由を尋ねると、「むずかしそうだったから」という答えが返ってきました。謎めいて見えてむずかしそうだからこそ、挑戦のしがいがあると感じたというのです。

 また、Antimoonは対象言語のインプット(読む、聴く)を重視しますので、インプットする素材が手に入りやすいかどうか、その素材に興味が持てるかどうかという点も、学ぶ言語を選ぶ上で大切だったそうです。

  Jさんは以前から英語の字幕がついた日本のお笑いの動画を観ていましたし、ゲームも好きでした。日本語のゲームで遊べば日本語のインプットになります。また、ジョークや笑いのセンスは翻訳するのがむずかしいですから、字幕を観ても笑えないこともあります。でももし日本語ができるようになれば、字幕に頼らず、直接日本語を理解して笑えるかもしれません。そんなことも、日本語を勉強する動機になったといいます。

  Antimoonメソッドで勉強することに決めていたJさんが日本語を学ぶ際に最初にしたのは、常用漢字を暗記することでした。常用漢字は約2000あります。それを一日50個を目標にし、40日ですべて暗記したそうです。毎日1時間を新しい漢字の暗記に費やし、30分程度を復習に充てました。この漢字の学習には、前回の記事で紹介した、忘却曲線を踏まえた暗記ソフトウェアを使いました。

  外国人は漢字を暗記する際に、特別な記憶術を使う場合が多いようです。Jさんの場合、「日」という字にsunという英語を結びつけて暗記しました。つぎに「月」にmoonというキーワード(この場合は日本語の意味も「月」であるわけですが)を充てました。この二つは、いろんな漢字に出てきます。つぎに「明」という漢字に出くわしたとき、The “sun” makes the “moon” “bright”(太陽が月を明るくする)という文章を作って「明」を暗記したと言います。

  この憶え方は、日本人が年号を憶えるときに文章を作って憶えるのに似ていると思いませんか? 『クレジットの意味』(5月23日の記事)でも書きましたが、意味のない記号を暗記するのはとてもむずかしいものです。1192という数字を憶えるときには、この4つの数字を繰り返してつぶやくよりも、「いいくにつくろうかまくらばくふ」という、15文字の意味のあるセンテンスを憶えるほうがはるかに簡単です。

  「明」以外にも、Jさんがいくつか例を挙げて漢字の憶え方を教えてくれました。
  「皇」Emperor: Ancient Rome had “EMPEROR” instead of “king”s, and they always wore “white” robes.
  (古代ローマでは国「王」ではなく<皇>帝はいつも「白」い衣をまとっていた)
  「男」Man: “MAN” uses his “power” to work in a “rice field.”
  (<男>は「力」を使って「田」で働く)

  このような憶え方をすれば、「男」という漢字を憶えるときに「田」や「力」の意味も復習できますね。すばらしい方法だと思います。

  Jさんは日本語を学びはじめてから最初の40日間は漢字学習に約1時間半を充て、あまった時間で平仮名や片仮名を憶えたり、日本語のビデオを観たり、日本語でゲームをしたりしました。また、Jさんは日本語学習を始める前から、職場でも一日じゅうイヤホンをして音楽をかけていたそうです。その音楽を日本の曲に切り替えました。イヤホンをつけたまま仕事をしても問題にならないなんて、日本の普通の職場では考えられませんね。

  ただ、仕事中は音楽に意識を向けるわけではないし、意識して聴かないかぎり語学学習の助けにはならないと思うと、Jさんは言っています。Jさんの場合、一日じゅうイヤホンをつけて、音楽を聴くともなく流しっぱなしにするのが習慣になっていたので、その音楽を日本語の曲に切り替えただけだということです。

  仕事中に日本語に接する時間は、一日にせいぜい15分程度でしかないとJさんは話してくれました。グーグルで調べものをするときに、英語の代わりに日本語で検索してみるといったことを、職場でもときどきしているそうです。

  日本人のほうが英語学習を仕事にとり入れやすいのではないかとJさんは言っています。とくにコンピュータ関係の情報は英語が共通語のようになっています。プログラマーのJさんが仕事中にわざわざ日本語を使おうとするのは無理がありますが、日本人が表示言語を英語に切り替えたり、英語で情報を集めようとしたりしても、仕事に差し支えはないかもしれません。

  長くなってきましたので、常用漢字を憶えおわってからのJさんの日本語学習については、つぎの記事で書きたいと思います。

  ところで、みなさんは「繭」という漢字を書けますか? わたしは書けないのですが、「繭」は常用漢字です。Jさんは自信を持って「繭」を書くことができるそうです。

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プロフィール

May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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