翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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2年で日本語が堪能になったアメリカ人(2)


 日本語を学びはじめて3か月ほど経ったとき、Jさんは日本人が書いたブログや日本語のQ&Aサイトを読みはじめました。常用漢字とひらがな、カタカナはすでに暗記しおえていたものの、文法の勉強をなにもしないままに文章を読みはじめたのです。

 普通、高校や大学、日本語学校などで日本語を学ぶ外国人なら、「わたしは○○です」というような文章から習うのではないでしょうか。そして「は」は助詞で、日本語は主語が来て、助詞が来て・・・というように、文法を習うはずです。

 けれどJさんは日本語にどっぷり浸かって、日本人の幼児と同じように日本語を身につけようと決心していたので、日本語の文法を英語で説明した教科書を読んだり教材を使ったりしませんでした。

 常用漢字を憶えたと言っても、読み方はまだわかりませんでした。意味を知らないままに形だけを知っている漢字もありました。その状態で、いきなり日本人が日本人の大人に向けて書いた文章を読もうとしたのです。

 日本語の文章に自動的にふりがなを振ってくれるソフトウェアがあるそうです。Jさんはそれを使いました。また、日本のゲームのなかには子どもでも遊べるようにふりがなのついているものがあり、それも活用しました。

 それでもJさんは、日本語の文章の構造を誰かに説明してもらったことは一度もありません。文法を勉強したことがないのです。意味を知っている漢字と、日本語のテレビ番組を観たりゲームをしたりするなかで身につけた知識だけが頼りでした。

  Jさんが読んだのはYahooの知恵袋のQ&Aや、アメブロのランキングで上位にランクされているブログでした。知恵袋のサイトではホームステイに関するQ&Aをよく読んだそうです。

 ホームステイに関するQ&Aなら、こんな質問がよく出てきます。「アメリカに短期留学するのですが、ホストファミリーへのお土産はなにがいいでしょうか?」

 Jさんは日本のテレビ番組を観ていましたので、ある程度の語彙はありました。この文章であれば、「アメリカ」がthe USだということはすでにわかっていました。つぎに「短期」という言葉ですが、「短」という漢字はshortという意味で、「期」がperiodを意味することもわかっていました。

「留学」は意味がわかりませんので、辞書を引きます。その場合も、できるだけ英語を避けて日本語を使って日本語を学ぶと決めていたので、日本語の辞書を引きました。Yahoo! Japan の辞書と三省堂Web Dictionaryをよく使っているそうです。

 Yahooの辞書で「留学」を調べると、以下の定義が載っていました。
* 他の土地、特に外国に在留して学ぶこと。「イギリスへ―する」「内地―」

 常用漢字を学んだおかげで、漢字はおおよその意味がわかります。「在留」というのはむずかしい言葉ですが、「在」と「留」に分けて考えれば、ぼんやり意味を想像できます。Jさんは「なんとなく意味がつかめる」という読書を続けました。

 Jさんのやり方は、たいていの外国人が日本語を勉強する場合とはまるで違っています。アメリカやオーストラリアには、外国語の選択科目で日本語を履修している学生がたくさんいます。そういった学生は日本人が英語を学ぶときと同じように教科書を使います。日本人と同じように、教科書に書かれている外国語の文章を、一言一句、意味を英語に翻訳して理解しようとしています。けれどJさんはテレビ番組を観たり日本語のブログを読んだりというインプットをしながら、「だいたい意味がわかる」「おおまかに意味がつかめる」という学び方をしました。

 Jさんはアルクの辞書、英辞郎も使いました。英辞郎では英文と和文が併記されていますので、英語を通して日本語を理解したと言えるでしょう。ただし、「『信用』の意味はcredit」というように、日本語の単語に英単語を直結させて理解したわけではありません。例文を読んで文脈のなかで単語の意味をつかんでいきました。

 英語の単語一つに日本語の単語一つを結びつけることをなんとしてでも避けようとしたと、Jさんは言っています。理由を尋ねたら、以下の答えが返ってきました。
1.その方法で勉強したスペイン語が、できるようにならなかったから。
2.外国語ができるようになった人たちの例を見ると、みんな母国語の単語に外国語の単語を対応させることを避けて、文脈のなかで言葉の意味を理解するようにしていたから。

 これには少し驚かされました。わたしはスペインに旅行したことがあるのですが、スペイン語の単語には英単語に似たものがたくさんあるので、スペイン語がまったくできないわたしでも、読めば意味が類推できる場合がありました。ですからヨーロッパの言語は、その言語の単語を英単語に対応させて暗記したとしても、それなりに外国語が理解できるようになるのではないかと思ったのですが、Jさんの場合、その方法ではスペイン語を習得できなかったのです。日本語と英語の距離は、スペイン語と英語の距離よりもはるかに離れていますから、単語に単語を対応させる方法がうまくいかないのは当然かもしれません。

 プログラマーのJさんはAnkiを参考にして独自のSRS(暗記ソフトウェア)を作りました。そしてそのフラッシュカードに日本語の文章と、その文章の意味とを書き込みました。当初はiKnowという外国語学習サイトがあり、そこでは文章を読み上げている音声も提供されていたので、それもフラッシュカードにとり込んだそうです。

 Jさんがどんな文章をフラッシュカードに書き込んで日本語を学んだのか、具体的に教えていただきましたので、次回の記事でご紹介します。英語を学ぶ際の参考になると思います。

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May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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