翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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Lang-8の使い方

 
 Lang-8で出会った日本語学習者の話を書いてきましたので、Lang-8をお勧めしているように見えたかもしれません。使い方によっては役に立つサイトですが、いくつか気になった点がありますので、それについて書いてみたいと思います。

 わたしがLang-8を知ったのは、奇妙な英語のブログに出会ったことがきっかけでした。なにか調べものをしていてグーグルで検索した英語のサイトのなかに、どう見てもネイティヴ・スピーカーが書いた英文とは思えない不自然な文章のブログがあったのです。文法上のまちがいも混じっていました。

 そのブログの作者は日本人で、Lang-8という添削サイトで英文を添削してもらっていると書いていました。ネイティヴ・スピーカーに添削してもらったのだから、ちゃんとした英文になっているとその人は信じているようでした。

 不自然な英語ではありましたが、なにが言いたいのか、おおよその意味はわかりました。まったく通じない英語というわけではありません。ですから、だいたい意味が通じればそれでいいと割り切って、添削された英文をブログに使うのであれば、なんの問題もないと思います。

 ただ、添削してもらっても不自然な英文にしかなっていないことを理解していない人が多いような気がします。外国人が書く日本語を添削してみるとわかりますが、添削して文法的な誤りを直しても、自然な日本語にならないケースがほとんどです。とくにインド・ヨーロッパ語族の言語を母国語としている人が書く日本語は、日本語とは違うロジックで書かれている場合が多く、少しくらい言葉を置き換えても、日本人が書いたような文章になりません。

 日本人が書く英文も、添削してもらってもネイティヴ・スピーカーが書くような文章になっていないケースが多いと思います。自営業の方で、自分が経営する会社の英文ホームページを作るからと言って、Lang-8で添削をしてもらっている人を見かけたことがあります。

 英語のネイティヴ・スピーカーと、日本語を母国語とする人とでは、ものの考え方そのものが違います。自分の会社を宣伝したいときに、どのような宣伝文を書くかということは、文化によって異なります。その自営業の方は仕事柄、外国人のクライアントと接する機会が多いせいか、ある程度の英文が書ける方のようでした。けれど、宣伝の仕方が日本的なのです。日本人的なものの考え方で英文を書いているので、文法的な誤りを完璧に直してもらったとしても、広告としては奇妙な文章にしかならない英文を書いていました。

 仕事に使う英文は、プロに依頼したほうがいいでしょう。Lang-8の添削者はみな素人です。会社を宣伝したいときに、どのような宣伝文を書けばいいのかがわかっている人は、めったにいません。

 また、英文を添削してくれる人はネイティヴ・スピーカーとはかぎりません。香港やシンガポール、マレーシア、ドイツ、フィリピンなどの国々出身の方達のなかにも添削する人がいます。その人たちにほんとうにネイティヴ・スピーカー並みの英語力があればいいのですが、なかにはそれほど英語力が高くないのに、日本人が書いた英語の日記を添削している人もいます。まちがった添削や、まちがいとまでは言えないものの、あまり感心できない添削を見かけます。

 Lang-8にはソーシャル・ネットワークの側面もあるせいか、日本人であるわたしをフレンドに登録して、わたしが書く英文の日記を読んでくださる日本人のメンバーが何人もおられます。内容に興味があって読んでくださるのであれば光栄ですが、わたしの英文を読むことは、英語学習にはほとんど役に立たないばかりか、むしろマイナスになるだろうと思います。

 たとえば、こう考えてみてください。あなたに子どもがいて、その子どもは事情があってアメリカで暮らしているとします。あなたと配偶者はわが子と一緒に暮らすことができず、子どもに日本語を教えてあげることができません。そこで、わが子に日本語を教えてくれる人を探してみたら、ふたり候補者が見つかりました。ひとりは日本人で、日本語のネイティヴ・スピーカーです。日本語ができるのはもちろんのこと、日本で生まれ育った日本人なので、日本人的なものの考え方や振る舞い方もわが子に教えることができます。もうひとりの候補は、日本で何年か暮らしたアメリカ人です。日本語がかなり上手ではありますが、「てにをは」など、日本人だったら絶対にまちがわない文法をまちがえますし、不自然な表現もします。また、日本人なら誰でも知っていることでも、このアメリカ人は知らなかったりします。

 あなたはどちらをお子さんの日本語教師に選びますか? Lang-8で日本人のフレンドを作って、日本人が書く英語の日記を熱心に読んでいる方々がおられます。日本人が書いた英文を読んでそこから英語を学ぼうとすることは、日本語がそこそこできるアメリカ人から日本語を学ぼうとするようなものです。読むことはインプットすることです。まちがった英語や不自然な英語を、どうしてわざわざ頭に刷り込もうとするのでしょうか?

 インターネット上にはネイティヴの書いた本物の英語があふれています。わたしは語学学習や日本の文化に関する日記を書くこともありますので、そういうテーマに興味を持って読んでいるとおっしゃる方もおられますが、日本人がそういうテーマで書いたものを読みたいのであれば、不自然な英文を読むよりも日本語で書かれたものを読んだほうがいいと思います。

 そういうテーマを語るときに使われる英単語や言い回しを学びたいのであれば、日本語学習に関する話や、日本に留学したときの体験談を綴っている英語のネイティヴ・スピーカーの英語のブログがインターネット上にいくらでもあります。Lang-8のメンバーのなかにも、そういったブログを英語で書いている英語のネイティヴ・スピーカーがいます。日本人が書いた英語の日記を読むだけの時間とエネルギーがあるのなら、そういうネイティヴ・スピーカーのブログを読んで、英語でコメントをして、ネイティヴ・スピーカーの友だちを作ったほうがはるかに英語の勉強になるでしょう。

 日本人が書く英語のほうがネイティヴ・スピーカーの英語よりもわかりやすいということも、日本人の日記を読む人が多い理由かもしれません。もし日本人の書いた英語のほうがわかりやすいのであれば、それこそ日本人の書いた英語が、どんなに上手に見えても日本人英語でしかない証拠ではないかと思います。

 自国民同士で友だちを作りたがるこの傾向は、Lang-8に登録しているほかの国々のメンバーにはあまり見られないようです。日本人同士仲がいいのは、とてもいいことだと思います。日本語を学んでいる外国人学習者の日記を添削するときに、添削内容についてほかの日本人と議論するのも楽しいものです。けれど、ネイティヴ・スピーカーと交流することが目的であるはずのサイトで日本人同士が固まっているのを見ると、せっかく海外に留学したのに日本人とばかりつきあって、結局あまり英語が上達しないままに帰国する留学生に似たところがあるように感じます。

 Lang-8で日本人が書く英語の日記を読んでそこから学ぼうとすることは、海外に留学したのに、自分よりも英語ができる日本人を見つけたからといって、その日本人のそばにいて、日本人が話す英語から英語を学ぼうとするようなものでしょう。

 英語が堪能な日本人は、ほかの日本人の英語を真似ることによって英語が上達したわけではないはずです。このブログで繰り返し書いてきましたが、英語は数学のように考えなければならない学問ではありません。ネイティヴが使う英語を真似ればいいだけです。英語が堪能な日本人は、そのようにして英語を上達させてきたはずです。ネイティヴの書いた英文がいくらでも手に入るのに、どうしてネイティヴの英語から学ぼうとせずに、日本人の英語を真似ようとするのでしょうか?

 とは言っても、Lang-8のメンバーになる目的は人によってさまざまでしょう。英語はたんなる趣味にすぎないという人も多いでしょうし、そういう人がLang-8を日本人の友だちを作る場と見なすのは悪いことではないと思います。なんのためにLang-8のメンバーになるのか、目的をはっきりさせて利用するといいのではないでしょうか。

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プロフィール

May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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