翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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Catch-22


 英語学習にかんする記事をようやく書き終えましたので、このブログの本来のテーマである「翻訳できない言葉」に戻ろうと思います。

 Catch-22という英語表現をご存じですか? 辞書を引くと、「にっちもさっちもいかない状況」「不条理な状況」「ジレンマ」「板挟み」というような訳語が出ていると思います。たしかに日本語に翻訳するとすれば、そういった訳語しか思いつかないのですが、ニュアンスがややずれているように感じます。

 Catch-22はそもそもジョーゼフ・ヘラーが書いた小説のタイトルでした。映画化もされましたので、ご存じの方もおられると思います。わたしは翻訳の勉強を始めて間もないころにこの作品を読みました。まだイギリスに行く前で、いまにして思えば英検準一級に受かるか受からないか程度の英語力しかなかった当時のわたしにとっては、かなりむずかしい作品でしたが、内容がおもしろかったので夢中になって読んだ記憶があります。

 25年以上前に読んだので、記憶がかなり薄れていますが、たしか以下のような内容でした。

 舞台は第2次世界大戦さなかのイタリア。主人公は危険な任務を早く終えて故郷に帰りたいと願うアメリカ人の爆撃機パイロットなのですが、Catch-22という矛盾した軍規のために、なかなか任務を解いてもらえません。たとえば、精神に異常を来した者は申告すれば任務を解かれると定められているのに、精神に異常を来している者は自分の異常さを認識できないはずだとされているため、申告すれば、その者は正常であると見なされるのです。

 また、「○○回飛んだら故郷に帰してやる」と言われて主人公は懸命に任務をこなしますが、その○○回が目前になると軍規が変更されて、もっとたくさん飛ばなければ任務を解いてもらえなくなります。それが何度も繰り返されるのです。つまり、任務を解いてもらえる○○回には、永遠にたどり着けない仕組みになっているわけです。

 辞書の説明を読んでもCatch-22の意味がわかりにくいのは、しかたがないかもしれません。Catch-22は、「手に入れたいものを手に入れるためには、それがすでに手に入っている状態でなければならない」という状況のときによく使われるように思います。

 駆け出しの翻訳家が仕事を探そうとすると、Catch-22的状況に悩まされることが多いでしょう。募集広告にはたいてい「経験者にかぎる」と書かれていますから。

 経験を積むためには雇ってもらって翻訳の仕事をしなければならないのに、経験がないと雇ってもらえない。これぞまさにCatch-22です。
It’s a Catch-22.(キャッチ22だよ)
It’s a Catch-22 situation.(キャッチ22みたいな状況なんだ)
こんなふうに使います。

 特定の状況にぴったりあてはまるこういう表現を使う快感を一度味わってしまうと、日本語でもこの言葉を使いたくなります。日本人と話しているときに、Catch-22という表現が頭に浮かんでしまうことがあるのです。

 Catch-22はぜひとも日本語にしたい英語表現です。

 下にアマゾンへのリンクを貼っておきました。この小説を原文で読むのはかなりむずかしいと思います。20世紀英文学の傑作と見なされている作品ですし、とてもおもしろいので、翻訳本ででも一度手にとってみられることをお勧めします。



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May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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