翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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「いただきます」の英訳は?

 6月12日の記事、『お疲れさまは英語でなんて言う?』のなかで、「お疲れさま」に相当する英語表現はありませんと書きました。
http://gujo.blog.fc2.com/blog-entry-8.htm

「いただきます」も、もちろん直訳しても通じません。そもそも「いただきます」という言葉は、どういう意味でしょう? 「これからいただかせていただきます」つまり、「いまから食べますよ」という意味でしょうか?

 たぶんそうではないですよね。日本人は「いただきます」と言いながら、両手を合わせます。これは祈りであり、感謝ですよね。「食べるものがあってありがたい」「作ってくださってありがとう」と、料理を作ってくれた人だけでなく、魚を獲ってくれた人、お米を作ってくれた人、料理に使うガスを供給してくれた人など、すべての人に対する感謝と、野菜や肉、魚などの生命に対する感謝、そして食べられる状況にある自分の幸せに対する感謝を表しているのでしょう。

 そう考えると、「いただきます」を英語に翻訳するとすれば、食前の祈りの言葉になるような気がします。キリスト教徒が食前の祈りを捧げるシーンを、映画などで見かけることがあります。一例を挙げれば、以下のような文言です。

For what we are about to receive, may the Lord make us truly thankful. Amen.

 食後の祈りの言葉もあるものの、文言はとくに決まっているわけではなく、宗派(教派)によっても家庭によっても異なるようです。わたしはイギリス人、アメリカ人、カナダ人、ニュージーランド人など、いろんな国の英語のネイティヴ・スピーカーと親しくなりましたが、英語で食前食後の祈りの言葉を捧げる人はひとりもいませんでした。よほど信仰心の篤い人でなければ祈りの言葉は口にしないのでしょう。

 ということは、「いただきます」と「ごちそうさま」は、やはり英訳が存在しないと考えたほうがいいかもしれません。日本人はとくに信仰心が篤くなくても、合掌して「いただきます」「ごちそうさま」と言いますから。この二つの言葉はコンパクトですし、合掌するという動作と相まって、じつに祈りやすくできています。

 英語を話す人たちと食事をするときも、「いただきます」と「ごちそうさま」を日本語で言ってもかまわないのではないかと、わたしは思います。両手を合わせて「いただきます」と言ったとき、周りの外国人がもし怪訝な表情を浮かべたら、日本ではこのようにして食前の祈りを捧げるのが習慣なのですと説明すればいいのではないでしょうか。

 ちなみに、祈りの言葉を口にすることを英語で “say grace”と言います。

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プロフィール

May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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