翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「藪の中」とRashomon

  Catch-22という英語表現を10月13日の記事でご紹介しました。考えてみれば日本語にも、映画化もされた有名な小説のタイトルを日常生活で使っている例がありますね。芥川龍之介の『藪の中』です。

「藪の中」という表現をオンライン辞書、Weblioの和英で引いてみたら、「真相は依然として藪の中だ」という例文をTruth is still a mysteryと訳して載せていました。同じWeblioの国語辞典で「藪の中」を引いてみると、「関係者の言い分が食い違っていて、真相がわからないこと」という三省堂大辞林による定義が掲載されています。

「藪の中」の意味は大辞林の定義の通りでしょう。和英辞典に掲載されている例文では「藪の中」はmysteryと訳されていますが、mysteryは単に「謎」という意味でしかありません。The truth is still a mysteryは「真相はいまだに謎だ」という意味ですから、日本語の「藪の中」とはニュアンスがずれます。「関係者の言い分が食い違っている」という部分を、英語では表現できていないわけですから。

 先日、日本映画に詳しい外国人が、イランの映画監督が撮った作品のあらすじを説明するときに、Rashomon-like structureと表現しているのを見て、なるほどと思いました。芥川龍之介の『藪の中』は黒澤明監督が『羅生門』というタイトルで映画化していますし、黒澤監督の作品は海外でとても人気があります。会話をしている相手の外国人が日本映画通だったら、「藪の中」と言いたい場合、Rashomon-like situationと言えば通じるかもしれません。

 “Rashomon”をグーグルで検索していて気づいたのですが、Rashomon effect(「羅生門効果」)という表現が、英語にはすでに存在していました。ただし、「同じ事象でも人によって見方が異なる現象」を指す言葉で、「藪の中」とはニュアンスが異なります。

 Rashomon effectという英語表現がいつごろから使われはじめたのか、よくわかりません。グーグル検索してみると、5万2千件しかヒットしませんでした。5万件程度ということは、まだそれほど一般的に使われていないのでしょう。

 The Daily Callerというニュース・サイトの政治関連の記事に、Rashomon effectが使われていますが(2011年7月29日)、寄稿者(クリントン元大統領のアドバイザー)はその記事のなかで、Rashomon effectの意味を詳しく説明しています。大統領のアドバイザーを務めた人物が書く政治関連の記事を読むような読者のなかにも、Rashomon effectという表現の意味を知らない人がたくさんいるということでしょう。

 ちなみに、日本語の「羅生門効果」でグーグル検索すると、2千件弱しかヒットしませんでした。それでも、スティーヴ・ジョブズの自伝にRashomon effectという言葉が出てきたと書いているブロガーがおられましたので、この表現は英語でも日本語でも今後どんどん一般的になるかもしれませんね。

左サイドMenu

プロフィール

May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

全記事表示リンク

メールフォーム

関心を持ってくださってありがとうございます。メールにはお名前をお書き添えください

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。