翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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すっと英語が出てくるようになるには

 高校卒業まで6年、あるいは大学も入れて10年も英語を勉強したのに喋れるようにならないと感じている日本人のあいだで、スカイプを使った安価なフリーカンバセーションの英会話スクールに人気が集まっているようですね。

 NHKラジオで『英会話タイムトライアル』という新番組が始まったのをご存じですか? 言いたいことを瞬時に言えるようになるためのトレーニングを主眼としているようです。2部構成になっていて、最初は日本語の文章を英語の文章に即座に変換する練習、次は対話形式で、講師の英語の質問に即座に英語で答える練習です。

 4月2日の放送分を聴いてみました。まずは以下の4つの文章でした。
「こんにちは」
「ごめんください」
「あのー、すみません」
「質問してもいいですか?」

 対応する英語は、”Hi.” “Hello.” “Excuse me.” “May I ask you a question?”でした。
「ごめんください」という日本語を聴いたとき、わたしはちょっと戸惑いました。日本語で「ごめんください」と言うのはどういう場面だろうかと、まずそれを頭のなかに思い浮かべてから、その場面で英語だったらなんて言うだろうかと考えて、やっと出てきた答えが、”Hello.”でした。簡単な英語ですが、瞬時には出てきませんでした。なぜなら、最初に日本語の「ごめんください」が頭のなかに入ってしまったからです。そこから翻訳することは、最初から英語でHelloと呼びかけることよりもむずかしいのです。

 こんなふうに書くと、「やっぱり英語で考えられるようにならないとだめなんだ」と誤解されてしまうかもしれませんね。「英語で考えなさい」とか、「英語で考えられるようになりなさい」というようなことを勧める人がいます。わたしは英語で話すときに、英語で考えているわけではありません。ぼんやりしたイメージや思いを言葉として外に出すときに、日本語としてそれを出すか、英語として出すかという違いがあるだけです。言葉を使って考えてから話すわけではありません。

 このことについてブログ記事を書こうと思いながら書きあぐねているうちに、「英語を話す人は英語で考えているわけではない」ことを簡潔に説明しているサイトを見つけました。
http://www.namaeigo.com/topics/eigono.html
 このサイトの管理人、松尾光治さんがお書きになっていることは、ほかにも英語学習者の参考になることが多いと思います。英語の学習法で悩んでいる方は精読することをお勧めします。

 使える英語を学ぶのに一番いい方法は、「いま、あなたはあるお店に入っていきましたが、店員の姿が見えません。どうやら店員は店の奥にいるようで、気配は感じられます。店の奥に向かって、店員を呼んでください」というように、状況を提示して、その状況において英語でどう言うかを学ぶことです。

 人に話しかけたのに、その人がぼんやりしていて、こちらが話しかけたことに気づかないときなどにも、少しふざけた口調で “Hello?”と言ったりします。「聞こえてる? (もしもし、聞こえますか)」というような意味です。

 NHKのこの新番組は、日本語から英語へいちいち翻訳しなければならないという欠点を差し引いても、かなり使えると思います。とくに対話形式で講師の質問に瞬時に答える練習は役に立ちそうです。対話形式のやりとりは、4月2日の放送では、コンビニやスーパーマーケットの場所や方角を尋ねられ、それに答えるという内容でした。

 ところで、NHKは今春から、コミュニケーション能力レベルを示す基準としてヨーロッパで広く採用されているCEFRという指標を導入し、各語学講座のレベルをCEFRで表示しています。それによると、『英会話タイムトライアル』はA2レベルとなっています。A2は、日常の基本表現を理解して、簡単なやりとりができるレベルとされています。

 NHKは『基礎英語1』と『基礎英語2』をA1レベルと設定しています。A2はA1よりも一段階上のレベルです。つまり『英会話タイムトライアル』は、A1レベルをクリアした人を対象にしているわけです。

 ここは大切なポイントです。冒頭に書いたように、フリーカンバセーションを売りにした安価な英会話スクールに人気があるようです。Lang-8のように、自分が書きたいことを書く自由英作文のサイトも、有料、無料問わず人気があります。学校で長年英語を習ったのに英語ができるようにならないのは、アウトプットの練習をしていないせいだと考える人が多いからでしょう。

 けれど、基礎ができていない人がアウトプットの練習をしても、片言の英語しか話せるようになりません。これに関しても松尾光治さんが、英語ネイティヴと結婚している人たちの英語について同様のことをお書きになっています。
http://www.namaeigo.com/topics/5years.html

『英会話タイムトライアル』の4月2日放送分のなかで、コンビニやスーパーマーケットの場所を訊かれたときの答え方として、”That way, I think.”という表現が使われています。また、”Thanks.” と言われて、”No problem.” と答えています。英語圏で長年暮らしている人や、ネイティヴ・スピーカーと結婚している人は、こういうことは即座に言えるようになります。英語がほとんどできない人がそういう人の英語を聴くと、英語が「ペラペラ」に聞こえるかもしれませんが、じつは、まとまった文章を作る力はなくて、かなりめちゃくちゃな英語を話していたりします。

 基礎学力のない人が、『英会話タイムトライアル』で使われている “That way, I think.” という表現を憶えると、適当な英単語を並べて、I thinkをそのあとにくっつけるという英語の話し方が癖になったりします。そういうことを繰り返しても、まとまった英文を話せるようにはなりません。Frankly, I think that too many people are obsessed with the idea of “becoming fluent in a foreign language.” というようなまとまった文章を、言ったり書いたりできるようにはならないのです。

 基礎的な英語力がない人は、英語に囲まれて長年生活しても、ネイティヴ・スピーカーのまとまった英語を正確に理解したり、きちんとした英語を話したりできるようになりません。たとえば、ネイティヴ・スピーカーと結婚している人が、結婚相手の家族と一緒に感謝祭を過ごすとしましょう。一緒に料理を作るような場面で、「ねえ、それ、とって」「これをあっちのテーブルに運んで」というような英語は理解できますし、自分でも言えますが、話が複雑になってくると、みんなの会話を理解することも、積極的に会話に参加することもできません。構文を知らず、語彙も乏しいからです。

 こういう状況にある人たちは、周りの人たちの会話についていけない状況に慣れていきます。長年日本で暮らしていながら日本語がほとんどできない外国人と同じ状況にいるわけです。

 もちろん、これを悪いと言っているわけではありません。英語のネイティヴ・スピーカーと結婚したからといって、きちんとした英語を話せるようにならなければだめということはないのですから。英語圏で何十年暮らしても、はちゃめちゃな英語を話す人もいますが(日本人にかぎらず)、それでも暮らしていけて、本人がそれでいいと感じているのであれば、なんの問題もないでしょう。

 ただ、基礎ができていない状態で、短い決まり文句のアウトプットだけを繰り返しても、まとまった文章を作れるだけの英語力は身につかないということだけは知っておいたほうがいいと思います。フリーカンバセーションや自由英作文を繰り返せば、そのうちに自然に英語力が身について、日本語と同じように英語を操れるようになると考えるのは幻想です。

 英会話学校も有料の添削サイトも商売ですから、「フリーカンバセーションや自由英作文ができるだけの英語力はあなたにはありませんよ。基礎から勉強し直してください」とは言わないでしょう。「アウトプットの前に、インプットをちゃんとしてください。自分でちゃんと勉強してください」とは言わないでしょう。学校側としては、長い間在籍してくれればくれるほど、お金になるのですから。

 日常英会話ができるだけの基礎力が自分にあるかどうかを確認する意味でも、『英会話タイムトライアル』は使えるかもしれません。第1課で使われた ”May I ask you a question?” “What’s the name of the convenience store?”という文章を簡単だと感じ、自分でもこのような文章を組み立てて言ったり書いたりできるだけの英語力があるのなら、この番組はとても役に立つと思います。逆に、『英会話タイムトライアル』に出てくる構文を難しく感じるのであれば、『基礎英語』のシリーズからやり直すことをお勧めします。

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まとめteみた.【すっと英語が出てくるようになるには】

高校卒業まで6年、あるいは大学も入れて10年も英語を勉強したのに喋れるようにならないと感じている日本人のあいだで、スカイプを使った安価なフリーカンバセーションの英会話ーニン...

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翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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