翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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わたしはビール

大学で日本語を学んでいる外国人(ヨーロッパの学生。英語のネイティヴ・スピーカーではない)から、「日本人は、“I’m beer”って言うと聞いたけど、ほんとうですか?」と英語で訊かれて、「わたしはビールです? そんなこと言わないよ」と否定しそうになりました。

でもよく考えてみると、「わたしはビール」……言いますね。
「わたしもビール」も言いますし。
「わたし枝豆」「ぼく唐揚げ」なんてのもあります。

英語で言うなら、 “I’ll have~~”とか “I’d like~~”でしょうか。

友人数人と好きな動物の話をしていたときのこと。
「わたしは馬」
「わたしは猫」
「わたしはウサギ」
と、ここまでは納得だったけれど、
「わたしはスズメ」と言った友だちがいました。
「好きな動物って訊かれて、スズメかい! ピンポイントでスズメ!」とみんなから突っ込みが入りました。

英語だったら、“What is your favorite animal?”という質問には単に “Horses”とか答えるでしょうね。

誰でも一つや二つ、苦手なものはあるもので、なにが怖いかという話をしていたときのこと。
「わたしはゴキブリ。嫌いなんじゃなくて、怖い」
「わたしはヘビ」
「わたしは鳥。とくに脚が気持ち悪い」
一人、黙りこんでいる友人がいました。
「ヨーコはなにが怖いの?」と尋ねると、
「人間」と一言。

「わたしはゴキブリ」と英語で答えるなら、“I’m scared of cockroaches”と言うこともできますが、 “Cockroaches scare me”はすごく英語的な言い方です。 “I’m scared of cockroaches”と言うと、ゴキブリを怖がる自分のほうになにか問題があるように感じられるのに、“Cockroaches scare me”と言うと、「わたしを怖がらせる悪い奴、ゴキブリ」みたいなニュアンスを感じるのは、わたしだけでしょうか。

人混みは苦手だというヨーロッパの友人(英語のネイティヴ・スピーカーではない)が、 “Crowds irritate me”と言ったときは、わたしにはできない発想だったので感心しました。わたしはいつも“I don’t like crowds”と言っていたのですが、“Crowds irritate me”のほうが、問題は自分にではなく人混みのほうにあるように感じられます。「いいなあ。これからはこっちを使おうかな」と思いました。

こういう、日本語とは発想がまったく違う英語の構文や主語の選び方を知ると、ちょっと大げさですが、意識の地平が広がるような気がします。

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プロフィール

May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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