翻訳家による翻訳できない言葉の話

日本語と英語の狭間で呻吟し、言葉を超えたものに思いを馳せる翻訳家のエッセイ

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フォニックスと英語の発音

このブログを読んでくださった方から、フォニックスについてどう思うかと意見を求められたので、フォニックスと発音について書こうと思います。ウィキペディアをご覧になればわかるとおり、フォニックスは英語圏の子供たちに英語の読み書きを教えるメソッドです。教えるのは「読み書き」です。正しい発音を教えるためのメソッドではありません。

英語圏の子供たちは、初等教育を受けるころには、英語の正しい発音はすでに身につけています。でも読み書きはまだできません。日本の子供たちがひらがなやカタカナ、漢字を学ぶのと同じように、英語圏の子供たちもアルファベットや単語の綴りを教わります。英語は発音と綴りがかなり食い違う言語なので、英語圏の子供たちは自分たちがすでに知っている単語の発音と、その単語の綴りを結びつけるのに苦労するようです。英語圏の子供たちが「話せるけど読めない、書けない」大人にならないように、つまり文盲にならないために考えだされたのがフォニックスです。

たとえば、「こねる」という意味の “knead”という単語があります。6、7歳の子供でも、この単語はすでに知っているでしょう。この単語の “knea”という部分の発音は「膝」を意味する “knee”と同じですが、綴りが違います。しかも、どちらも “k”は発音しません。英語圏の子供たちは、発音のほうを先に(生活の中で自然に)学んで身につけてしまっているために、その発音と綴りを結びつけるのに苦労するわけです。

一方で日本人が英単語を学ぶ時には、発音と綴りを同時に学びます。「いや、発音は学ばなかった。綴りだけを学んでカタカナ式に単語を読んでいた」という人もいるかもしれません。そういう人が「フォニックスを学ぶと発音がよくなる」というようなセールストークを聞くと、飛びつきたくなるかもしれませんね。でも、フォニックスは発音をよくするためのメソッドではなく、音と綴りを結びつけるためのメソッドです。

フォニックスによる発音教育を宣伝しているYouTubeの動画をいくつか観てみましたが、その中には発音のよくない日本人の先生もいました。たとえば、 “b”の発音を教えるのに “bird”という単語を使っていた日本人の先生は、“ir”の発音が日本語の「あー」の音になっていました。“bird”の “ir”の音は「バード」の「ー」の音とはまったく違います。

“bird”の正しい発音を学びたければ、辞書を使えばいいと思います。“bird”の発音がカタカナの「バード」とどれくらい違うか、以下で確認してみてください。
http://www.thefreedictionary.com/bird

上のオンライン辞書はアメリカ英語とイギリス英語、両方の発音が聴けるのでリンクを貼りましたが、学習者が使うのは以下のような学習者用の辞書のほうがいいと思います。簡単な英語で説明が書かれていて、わかりやすいので。
http://www.learnersdictionary.com/definition/bird

もっとも、発音を聴くためだけならどんな辞書でもかまいません。単語の発音を知りたいと思ったら、いまの時代、いつでもどこでも、スマートフォンや電子辞書でネイティヴ・スピーカーの正しい発音を確認できますよね。

フォニックスは発音と綴りの関係を教えるメソッドなので、フォニックスを学ぶと英語が「自力で」読める(発音できる)ようになると言っている日本人の先生がいます。YouTubeで見かけたある先生は、「フォニックスを学んでいなかったら、英単語にカタカナを振らなければ読めない(発音できない)」とおっしゃっていて、びっくりしました。

発音のわからない単語を「自力で」発音することに、わたしは大反対です。自己流で英語を発音しようとすると、間違った発音を憶えてしまう危険があるからです。英語の発音と綴りの関係にはあまりにも「例外」が多く、たとえフォニックスを学んでも、フォニックスが教える発音の法則に当てはまらない読み方が無数にあります。

アメリカ人の英語教師が、フォニックスの発音ルールの「例外」について書いていました。
have – gave
love – cove
come – home
chocolate – late
http://eflfrog.com/blog/what-is-wrong-with-phonics/
簡単な単語ばかりですが、左側は「silent “e” (単語の語尾にあるeは発音しない)がある場合は最初の母音を長く発音する」というフォニックスのルールが当てはまらない単語のごく一部です。(ちなみに、「silent “e”」というルールにも「例外」があります。たとえば “she”)

シンガポール人が発音を間違えやすい英単語に関する動画を見つけました。“jewellery (jewelry)”や“sword”という単語、皆さんは発音できますか?



正しい発音を聴いて育つ英語のネイティヴ・スピーカーから見れば、考えられない間違いです。

では、フォニックスを学べば、 “jewellery”や “sword”を「自力で」正しく発音できるようになるのでしょうか? フォニックスが教えている発音と綴りの関係に関するルールを調べてみました。以下のとおりです。
http://english.glendale.cc.ca.us/phonics.rules.html
http://phonics.friends-esl.com/phonics-rule.php

ご覧のとおり、最初のサイトに記載されているルールは10個。2番目のサイトに記載されているルールは16個です。ひと口にフォニックスと言っても、教えるべきルールが決まっているわけではないようですね。最初のサイトは “phonics rules”でグーグル検索して一番上に表示されたサイトで、グレンデール・コミュニティ・カレッジというアメリカの教育機関が提供している資料です。このサイトが定義しているフォニックスの10のルールのうち、1番目のルールを見てください。“Sometimes the rules don’t work”とあります。10のルールの初っ端が、「ルールが当てはまらないこともある」なのです。

日本人のサイトで説明されている16のルールをすべて頭に叩き込んだ学習者が、“jewellery”という単語に出くわしたと仮定しましょう。“jewellery”が16のルールのどれかに当てはまるかどうか考えながら学習者が発音を「自力で」見つけようとしたとしても、正しく発音できないはずです。“sword”も同じです。ルール14は「wから始まる単語のwは発音しない」となっていますが、“sword”は “s”から始まるので、このルールは当てはまりません。

そもそも、フォニックスのルールの「例外」はどの程度あるのでしょうか? 全英単語の1パーセント? 5パーセント?

綴りを教えるのに(「発音を教えるのに」ではありません)フォニックスは必須だと考えているフォニックス擁護派の教師が書いたブログでは、フォニックスのルールが当てはまる英単語は84パーセント前後となっています。「例外」は16パーセント前後ということですね。
http://goo.gl/Vad9JU

下のサイトは各ルールごとに、そのルールの「例外」がどの程度あるかを示しています。(スクロールダウンして表をご覧ください)
http://www.ascd.org/publications/books/108002/chapters/Phonics-and-Word-Study.aspx

「silent “e”がある場合は最初の母音を長く発音する」というルールの「例外」は32パーセントと書いてあります。

フォニックスを擁護する立場の教師が書いている数字を信じるとしても、フォニックスのルールを完璧に理解して頭に叩き込んだ上で英単語を10個「自力で」発音しようとすると、1個ないし2個は間違えるということになります。中学校で教わる英単語が1200くらいですから、フォニックスのルールを頼りに「自力で」発音しつづけていると、中学校を卒業するころには200ほどの英単語の発音を間違って記憶することになります。

ルールを暗記して、そのルールに当てはめながら「自力で」発音して間違った発音を憶えてしまうのと、電子辞書やオンライン辞書に綴りを入力し、ネイティヴ・スピーカーの発音を聴いて正しい発音を学ぶのと、どちらが効率的でしょうか?

発音と綴りにある程度の関連性があるのは事実です。たとえば、上に例に挙げた “knead”です。この単語に初めて出くわした時、フォニックスのルールを頭に叩き込んでいれば、“kn”から始まる単語の“k”は発音しないというルールと、母音がふたつ続く時はひとつ目を長く発音してふたつ目は発音しないというルールを活かして、正しい発音ができます。

もっとも、その程度のルールは、わざわざ学ばなくても自然にわかるようになります。フォニックスを知らない人が “knead”という単語を見て、オンライン辞書などで発音を確認したとしましょう。ネイティヴ・スピーカーの発音を聴けば、 “k”は発音しないとわかります。その時、普通の思考力や記憶力の持ち主であれば、「ああ、そういえば “knock”の“k”も発音しなかったな。“knife”の“k”も“knee”の“k”も発音しなかった。“kn”で始まる単語は最初の “k”を発音しないのかも」と考えるでしょう。また、“ea”は「“lead”や“eat”や“dream”の“ea”と同じ音だな。そうか、“ea”はこの発音になることが多いんだな」とわかるはずです。

そもそも、フォニックスのことをほとんどの日本人が知らなかった(わたしが英語を学んだ)40年前でも、「“kn”で始まる単語の “k”は発音しない」という程度の基本的なルールは教えられていました。以前お薦めした参考書、“Practical English Usage”(Michael Swan著)の “spelling and pronunciation”の項にも、綴りと発音の関係や例外的な綴りが説明されています(下にリンクを貼りました)。

日本人がフォニックスを活用しようとすることには無駄が多いとわたしが感じるもうひとつの理由に、ネイティヴ・スピーカーの場合は、綴りと発音を結びつけることができなくてもその単語をすでに知っていることが多いのに対して、日本人はその単語を知らない場合が大半だという事実があります。

ネイティヴ・スピーカーの子供は、“knead”という単語の綴りと発音を結びつけることができた瞬間に “knead”の意味がわかる(すでに知っている単語なので)のに対して、日本人で “knead”の発音がわからない人は、“knead”の意味も知らないケースが大半なので、本を読んでいて “knead”という単語に出くわしたら、どっちにしても辞書を引かなくてなりません。単語を発音できても意味がわからなければ役に立たないわけですから。どっちにしても辞書を引くのであれば、辞書を引いたついでに音声も聴いたらいいじゃないかと思うのですが。昔と違って、いまは電子辞書やスマートフォンを使えば、いつどこにいてもネイティヴ・スピーカーの発音が聴けるのですから。

英単語にカタカナを振る人がいると知った時はびっくりしました。是非やめることをお勧めします。わたしはそういうことをしたことがありませんが、頭の中で無意識のうちに日本語のような発音で英単語を発音していた時期がありました。そのころ、アメリカ人と話をしている時に、その人が“He is a cowed”と言ったように聞こえたので、 “What’s ‘cowed’?”と聞き返したことがありました。その人は驚いたような顔で、 “Don’t you know ‘cowed’? Fearful, timid.”というような意味のことを言い、それを聞いてわたしはやっと「ああ、“coward”のことか」と気づいたのでした。

“cowed”と聞こえた時に、よく知っている単語“coward”のことだとなぜ気づかなかったかというと、“coward”を頭の中で「コワード」と読んでいたせいだと思います。わたしは普段英語を話す機会がほとんどなく、数年前までの十数年間、仕事で英語を読む以外はできるだけ英語に触れないように(聴かないように)していたので、英語の音と疎遠になってしまっていたのです。ここ数年は英語の音声を時々聴いて、正しい発音を忘れないように多少努力していますが。すでに意味を知っている単語でも、発音を正しく認識しているという自信が持てない単語を見かけるたびに、辞書の音声機能で確認するようにしています。正しい発音を知っておくことは、英語を話す時だけでなく聴く時にも必要なので。

“coward”の正しい発音はこうです。
http://www.learnersdictionary.com/definition/coward

フォニックスに話を戻しますと、結局のところ、フォニックスは1番目のルール(ルールが当てはまらないこともある)を認識した上で、単語の発音と綴りの関係をざっくり学ぶには役に立つと思います。フォニックスの適当なビデオがないかどうかYouTubeで探したのですが、子供向けのもの(アルファベットの発音を教えるもの)ばかりで、フォニックスのルールを大人(中学生以上)向けに簡潔に説明していて、なおかつネイティヴ・スピーカーが発音のお手本を見せているものを見つけることができませんでした。市販されている教材の中には、大人の学習者を対象とした適切なものが存在しているかもしれませんが。

次のビデオはフォニックスを謳っていないものの、「silent “e” がある時は最初の母音を長く発音する」というルールを教えています。



発音を一からやり直したい人は、いろんな発音教材の動画がYouTubeにありますから、いくつか観てみて、気に入ったもので練習するといいのではないでしょうか。

イギリス英語の教材の一例:


アメリカ英語の教材の一例:



このアメリカ人の先生は目が無表情で怖いと思うのはわたしだけ? (^^;)

とてもいい発音教材を見つけました。



このsozo exchangeという組織がアップロードしている動画はお薦めです。ホームページは以下にあります。
http://sozoexchange.com/

秀逸なサイトと言えば、English Centralという学習サイトをご存知ですか? 英語の字幕が入った動画を観ながら学べるサイトです。
http://www.englishcentral.com/videos#

ひょっとしたら以前にもご紹介したことがあったかもしれませんが、このサイトはほんとうによくできていて感心します。ひとつの動画が短いのもいいですね。半端な時間にも学習できます。まず音声だけを何度も繰り返し聴いて、それから聴きとれなかった箇所の字幕を確認することをお勧めします。聴きとれない単語、わからない単語をクリックすると、その単語の説明が表示されて発音を聴くこともできます。

メンバーになると(無料メンバーでもかなりの機能が使えます)、なぜかサイトの表記が日本語になってしまいました。英語表記に切り替えて使うといいと思います。右上の地球儀のようなマークにカーソルを持っていくと、表示言語を切り替えることができます。ほかのサイトを使う時も、英語表記を選べる場合は英語を選んで、英語を「使う」ことに慣れることをお勧めします。



Practical English UsagePractical English Usage
(2005/07/07)
Michael Swan

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プロフィール

May

Author:May
翻訳家。フリーランスになって24年。出版翻訳専門。京都府在住。

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